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ブラックアウト寸前

増え続ける細胞の音を聞いた気がしてあまりの生命力に思わず息を止めてみた

2024'05.05.Sun
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2007'04.15.Sun
存在自体が何かの歪みでできたような男は外見とは裏腹に人懐こい男を演じていて、だから質が悪い。
すぐに喧嘩に巻き込まれる。その癖、反撃もしないでへらへらと笑っているからまた殴られる。
だから苛々として少し早口に小言を言った。なんでそう巻き込まれっぱなしになるんですか、毎度のように間に入るこちらの身にもなりなさい。
「面倒なだけじゃ」
「ならまずその奇抜な格好をどうにかしたらもっと面倒が減るんじゃないですか」
「嫌じゃア、これは譲れん」
色の抜けきった(私からすれば長すぎる)前髪の間で斜視気味の眸を少しだけバラバラにきろりと動かしてこちらの様子を伺う。それをみてまた私は苛々とする。
「沁みる」
「当たり前でしょう」
唇の端が切れて少し血が滲んでいたので軽く消毒液を吹きかけてやった。
べろりとそこを舐めて、今度は苦いと仁王が言う。
「舐めなければいいでしょう」
「だってぇ」

苛々する。
自己否定が大好きなこの男が自分に何を求めているか分かり切っているので余計に苛々する。
自虐的なくせに甘えたがりで嫉妬深い面倒でしかない男に対して結局苛立ちながらも構っている自分自身にも苛々する。

話すだけ無駄だとばかりに黙って消毒液をしまうと早々に制服からユニフォームに着替えてラケットを手に取った。
「やあぎゅう」
甘ったるい声で後ろから声が掛かる。
無視して部室を後にしようとするとまた言葉が後ろから掛かる。
「キスして」
「嫌です」
「なして」
「する意味がありますか」
「ある」
「どこに」
「してくれんと死ぬ」
「誰が」
「まさはるくんが」



首根っこを掴むようにしてロッカーに強く押しつけると、仁王はまるでそうすることが初めから分かっていたように目を猫のように細めて口を開ける。
噛みつくようにそこへ口づけ、苛立ち紛れに先程できたばかりの傷口に思い切り歯を立ててやった。
びくりとその一瞬だけ肩に力が入るのが感じ取れた。しかしそれはすぐに弛緩して細い指の先が少しだけユニフォームの裾を掴む。
乱暴に舌を差し込み唾液を混ぜ返し、歯列をなぞる。うく、と喉の奥で少しだけ呻いたのを聞いて少しだけ憂さが晴れたので離してやった。

肩で息をしながら仁王はふふ、と笑った。
「やっぱり俺の彼氏はええ男じゃア」

一発殴ってやろうかとすら思ったが表から声がしたので拳の力を抜いた。
「早く支度なさい、皆がきます」
「はあい」
いそいそと支度を始める仁王を視界の端に捕らえながら柳生は部室へ入ってきた赤也と丸井と何気ない会話をしながら大概歪んでるのは自分かと、何度目になるか分からない自問をして柳生は結局今日も仁王とコートに立つ。


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